ポンコツズイ

あの日は展示会へ向けてジュウナンハート合宿をしている最中だった。お手伝いをお願いしたミサとさっちゃんが家に居た。黙々と服を作り切りのいいところで寝ることにした。

 就寝後、午前2時頃だろうか、時計の秒針と微かな寝息だけが聞こえる部屋に突然携帯電話が鳴り響いた。
都立駒込病院に入院しているりぃりがもう最後なので時間があれば会いに来て欲しいとの事だった。
とにかく僕らはタクシーに飛び乗った。
  ファッション界でバリバリ働く元気な女性=りぃり。そんな彼女がある日、体のアザをきっかけに病院で診察すると、血液の病気らしくその後100万人に5人位の確率で発症する血液の難病だということが判明した。それからは抗癌剤治療や骨髄移植等凄まじい治療の日々が続いていた。
行き先を聞いて察したタクシードライバーは熟睡しきった東京の街を、大きなイビキをかくように勢いよく走った。
病院へ着き、普段は入れない無菌室へ入ると親御さんや友人が数人来ており、ベッドの上には管をつけた弱々しいりぃりがいた。
連絡を受けた他の友達も1人、2人とやって来る。
今までよく頑張ったね、りぃり。もう頑張らなくていい。僕だけではなくそこに居たほとんどがそう思っていたと思う。
憔悴しきった体を見るのは辛かった。それぞれが意識があるのかよく解らないりぃりと会話した。僕は何も言えず逆にりぃりからメッセージをもらった。むくんだ足をさすってあげた。とても硬かった。
そんな中、ソンヘも駆けつけりぃりに最後のお別れの言葉を言う。と思った。しかし彼女はりぃりに「何で?りぃり頑張んなよ!」ソンヘはりぃりにまだ生きろと言った。僕はその言葉に場違いな感じを受けたが、同時にはっきりとその場の雰囲気、空気が変わるのを感じた。
  親御さんに促され僕らは無菌室を出た。行き場を失った僕達はとにかく待った。時間が止まった病院のデイルームでどれくらい待ったも分からないが、時間の最先端が部屋の中で行き場を失っていた。友達も、知らない友達も居たが、りぃりの為に集まった友情に涙が出た。窓の外は明るくなり鳥のさえずりが聞こえ出す頃、りぃりのお父さんがデイルームに入って来て、りぃりの心拍数が上がり始めたと教えてくれた。
待つことが正しいか分からなかったが待ってよかった。すごく嬉しかった。どうやらみんなの気持ちが力となったようだ。僕は「ソンヘが魔法をかけた。」と思っている。
僕は学んだ。どんなギリギリの崖っぷちに立たされても諦めてはいけない。
そして僕はジュウナンハートの次のシーズンのタイトルを「生きている」としたのを覚えている。
だからたまたまこれを読んだ人も、仕事で、学校で、病院でギリギリになる時があると思うけど、絶対諦めないで欲しいと思います。
そしてあの日からもう直ぐ2年経ちますが、その〝魔法をかけられた〟りぃりが当時を振り返り闘病記を集英社から刊行しました。
タイトルは『ポンコツズイ』
是非読んで泣いて笑って欲しいと思います。
諦めるな!俺にもできる!自分に言い聞かせて。
ポンコツズイ
ポンコツズイ